届いたものを、4つに分けて読む
慰謝料の請求は、いろいろな形で届きます。彼の配偶者本人からのメッセージや電話。弁護士の名前で届く書面。内容証明郵便。裁判所からの郵便。驚きと怖さで、最初の数行しか目に入らないこともあります。
まず、届いたものを手元に置き、次の4つを紙に書き出します。
- 誰から:配偶者本人か、代理人の弁護士か、裁判所か
- 何を根拠に:どんな事実を挙げ、どの法律を根拠にしているか
- いくら:請求されている金額と、その内訳
- いつまでに:回答や支払いの期限。裁判所の書面なら、出頭する日
「10月3日、配偶者の代理人だという弁護士から書面。回答の期限は10月17日」のように、1件を1行で書ければ十分です。
書き出すのは、書かれた内容を認めるためではありません。読み落としを防ぎ、相談するときにそのまま見せられる形にするためです。書面は捨てずに、封筒ごと取っておきます。スマホで撮影して残すときは、彼と共有しているアルバムやクラウドに同期されない場所を選びます。
裁判所からの郵便は、放置しない
「誰から」が裁判所だった場合は、扱いが変わります。
裁判所は、裁判所の手続を悪用した架空の請求について注意を呼びかけています。その説明では、裁判所から郵便物が届いているのに、身に覚えがないとして放置すると、架空の請求について判決などがなされ、強制執行を受けるようなことがあるとされています。不審な点があるときは、書面に書かれた電話番号がにせものでないかを電話帳などで確かめたうえで、裁判所に直接電話で問い合わせます。届いた書面を裁判所に持っていってもかまわない、とも書かれています。
訴えられた側(被告)についても、裁判所の説明があります。被告が欠席した場合には、答弁書などで原告の請求を争う意図を明らかにしていない限り、原告の請求通りの判決が言い渡される可能性がある、というものです。答弁書は、訴状に書いてある原告の請求や主張に、被告が返答する書面です。
裁判所からの書面に日付が書かれていたら、その日付を最初にメモに書き、その日のうちに弁護士への相談の予約を取ります。
急いでやらないこと
請求を受けると、早く終わらせたい気持ちが強くなります。その気持ちのまま動くと、あとから取り消しにくいものが残ります。次の3つは、弁護士に相談する前にはしないでおきます。
その場で払う、書面に署名する
「今日中に払えば表に出さない」「この念書にサインして」と求められることがあります。金額が払える範囲に見えても、その場では応じません。払ったお金や署名した書面があとでどう扱われるかを、あなたはその場で確かめられないからです。書面は持ち帰り、弁護士に見てもらってから決めます。
相手と直接やり取りを重ねる
謝りたい気持ちや、事情を分かってほしい気持ちから、配偶者に長いメッセージを送りたくなることがあります。けれど、送った文面は相手の手元に残ります。言いたいことがあるなら、先に弁護士に話し、どう返すかを一緒に決めます。電話がかかってきたときも、その場で事実関係を話さずに「弁護士に相談してから返事をします」とだけ伝えて切る方法があります。
彼にだけ任せる
請求の話を彼に伝えると、「こっちで何とかする」と言われることがあります。ただ、請求はあなたの名前に宛てて届いています。彼と配偶者の話し合いが、あなたへの請求にどう関わるのかは、彼にも分からないことがあります。彼に話すのはかまいません。そのうえで、あなた自身の相談先を別に持っておきます。
相談の前に、自分の側の事実を日付で並べる
相談の時間を有効に使うために、請求の書面に書かれた事実と、あなたが知っている事実を、別々に並べておきます。
並べておきたいのは、次のようなことです。
- 彼と知り合った時期と、交際が始まった時期
- 彼が既婚だと知った時期と、知ったきっかけ
- 彼から夫婦関係についてどう聞いていたか(別居している、離婚の話が進んでいる、など)と、聞いた日付
- 交際が続いた期間と、今も続いているか
- 請求が届いた日と、届いた方法
条文に書かれていること
ここで、法律の条文がどう書かれているかを見ておきます。
民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。続く710条は、前条の規定によって損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても賠償をしなければならない、と定めています。
709条には「故意又は過失によって」という言葉があります。彼が既婚だといつ知ったか、知ることができたかを日付で並べておくのは、あなたの事実がこの言葉とどう関係するかを、弁護士に確かめてもらうためです。交際を始めた頃のLINEや予定のメモが残っていれば、日付の裏付けとして一緒に持っていきます。
時効の条文
請求が、交際から時間がたってから届くこともあります。民法724条は、不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、または不法行為の時から20年間行使しないときに、時効によって消滅すると定めています。
あなたの場合にいつから数えるのか、すでに期間が過ぎているのかは、条文を読むだけでは判断できません。弁護士に相談して確かめる事項です。自分で「もう時効だ」と決めて請求を放っておくことはしません。
相談先と、費用が心配なときの制度
払うかどうか、金額をどう考えるか、どう返事をするか。どれも個別の判断で、この記事では書きません。弁護士に相談してから決めます。
弁護士の費用が心配なときは、法テラスの制度があります。法テラスの説明では、民事法律扶助業務は、経済的に余裕がない方が法的トラブルにあった時に、無料で法律相談を行い、弁護士・司法書士の費用の立替えを行う業務です。相談は、全国各地にある法テラスの事務所や、法テラスと契約のある弁護士・司法書士の事務所などでできます。
相談で問題が解決せず、弁護士や司法書士に依頼する必要がある場合には、費用の立替えを行っているとされています。利用には、収入や資産が一定基準以下であるなどの条件があり、審査が必要です。あなたが条件に合うかどうかは、法テラスに問い合わせて確かめます。
どこに相談すればいいか分からないときは、法テラス・サポートダイヤルに電話する方法もあります。専門のオペレーターが、問い合わせの内容に応じて、法制度や相談機関・団体などを紹介します。オペレーターは個別の法律相談や法的判断は行わず、個別の法律相談を望む場合は法律相談の窓口を案内する、とされています。
相談に行くときは、最初に書き出した4つと、日付で並べた事実、届いた書面の現物を持っていきます。
あなたはいま、どの段階にいるか
ここまでの内容を、あなたの状況に当てはめてみます。
- 請求はまだ来ていないが、来るかもしれないと感じている
- 配偶者本人から、メッセージや電話で請求された
- 弁護士の名前の書面や、内容証明郵便が届いた
- 裁判所から郵便が届いた
どの段階でも、その場で払うことや署名、相手との直接のやり取り、彼にだけ任せることは避けます。書き出した4つと日付の一覧を持って、相談先に向かいます。
まだ請求が来ていない段階なら、彼との関係がいまどこにあるのかを、落ち着いて見直す時間があります。